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第23回 日本神経免疫学会学術集会

第23回 日本神経免疫学会学術集会_f0183250_22271510.jpg 新宿の京王プラザホテルで日本神経免疫学会の学術集会が開催されました。今年は会長である信州大学の高先生の取り計らいで、日本臨床免疫学会総会との合同開催となり、「免疫疾患学会連合2011」として開催されました。学会2日目は朝から晩まで合同シンポジウムが企画され、普段あまり聴くことがない、関節リウマチや炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎などの病態やこれら疾患の最新の治療の話題がたっぷり聴けて、とても勉強になりました。特に、関節リウマチにおける治療の進歩には驚かされました。MSの治療開発のスピードも速くなったとは思いますが、5年くらいは遅れている印象です。

 MSに関するシンポジウムで最も面白かったのは「日本人の多発性硬化症ではなぜ通常型が増加し発症が若年化したか」と題したシンポジウムで、九大の吉良教授、北海道医療センターの新野先生、精神・神経医療研究センターの三宅先生、名古屋大の薗部先生がそれぞれの研究の立場から持論を展開されていました。MSは欧米の高緯度地域に多いため、遺伝的要因の他に環境因子が関わっているのは間違いないところですが、それが何なのかははっきりしていません。食生活の変化(魚から肉、特に米国産牛肉消費量の増加、インスタント食品)とそれに伴う腸内細菌叢の変化、日光照射量の減少(ビル内での生活)、海外(西欧)生活歴の有無など、どれも怪しいものの根拠はまだ明確にはなっていません。

 基礎的な研究発表にも面白いものが沢山ありました。現在承認申請中のFTY720に関する基礎実験や、治療薬として開発中のPEG化インターフェロンの基礎実験など、臨床に密接したものが増えているのが印象的でした。FTY720は当初考えられていた作用機序以外の効果が指摘されてきており、薬剤としての有用性が益々期待されると同時に、思わぬ副作用が出てくる可能性が否定できません。特に、MS以外の疾患で誤用された場合や、コンプライアンス不良による悪影響が懸念され、その適用や投与には十分注意する必要があると再認識しました。
 
 NMOに関しては、抗AQP4抗体による補体依存性のアストロサイト障害が病態であるという認識はほぼ完全に共有された印象で、今後は治療法の開発、特に関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの全身性自己免疫疾患に対する様々な治療法の中から、いかに有用な治療法を見いだすかが重要になってくると思われました。(中島)


# by multiplesclerosis | 2011-09-17 23:17 | 学会報告

第4回PACTRIMS報告

第4回PACTRIMS報告_f0183250_21313895.jpg8月28日から30日まで、シンガポールのラッフルズ・コンベンションセンターで第4回のPACTRIMS(Pan-Asian Committee of Treatment and Research in Multiple Sclerosis)が開催されました。

アジア各国からの研究報告や症例報告に加えて、MS治療薬のメーカー各社協賛によるサテライトシンポジウムでは欧米や豪州などからエキスパートが招待されて多くの講演をしてくれました。年々一般演題の内容の質も向上しており、欧米からのゲストもあまり戸惑いなく議論に参加できているようでした。

今年からMultiple Sclerosis Journal (MSJ)が協賛してくれたという学会賞には、タイからの研究報告が選ばれ、MSJ協賛の若手学会賞には韓国からの研究報告が選ばれました。日本、豪州以外から学会賞が選ばれるのは初めてのことだったと思います。いずれの研究も東北大学多発性硬化症治療学講座との共同研究で、我々としては非常に嬉しい結果となりました。

タイとの共同研究は、タイの炎症性脱髄疾患(MS関連疾患)における抗AQP4抗体の陽性頻度を検討したもので、厳密に既存の診断基準を適用しても、MSと誤診されるNMOがあって、その数が無視できない程東南アジアにはあることを示した研究です。つまり、抗AQP4抗体を測定しないと診断できないNMOが沢山いて、MSと誤診されることで不適切な治療を受けることになってしまう患者さんがアジアには多いことをはっきりさせたわけですが、学会の今後の方向性を考える上でも非常に重要な報告になったと思います。

韓国との共同研究は、NMOにおける妊娠、出産のリスクを調べたもので、現在投稿中のものです。NMOでは出産後に再発頻度が増す傾向にありますが、プレドニンの治療を継続することでそのリスクを十分に低下させることができます。NMOによる妊娠、出産への影響はなく、いままで出生児に問題が生じたという報告もありません。

このほか、西山修平先生のアストロサイトの研究が若手賞(Young Investigator Award)を受賞しました。おめでとう!


# by multiplesclerosis | 2011-08-30 21:23 | 学会報告

仙台NMO勉強会

仙台NMO勉強会_f0183250_1931320.jpg7月16日に仙台市のトラストシティで仙台NMO勉強会が開催されました。海外から6人、国内からは60人以上の参加者があり、とてもいい議論が出来たと思います。

海外からは、アメリカのテキサス州ダラスにあるテキサス大学サウスウェスタン医療センターのGreenberg先生、イギリスのオックスフォード大学から、Leite先生とWaters博士、イギリス・リバプールにあるウォルトンセンター病院からJacob先生、韓国ソウル市郊外のイルソン市にある韓国国立癌センターのHo Jin Kim先生とWoojun Kim先生が参加してくれました。

Greenberg先生は以前のブログでも紹介しましたが、ガシー・ジャクソン財団に協力して全米のNMO患者登録をまとめています。これから開発される新規の薬剤について、少人数で有効性と安全性を確認する効率のいい臨床試験のあり方についての提言がありました。

Leite先生はポルトガルの出身の神経内科医で、主に自己抗体が関与した神経疾患が専門です。重症筋無力症や自己免疫性脳炎、視神経脊髄炎などの病因に関わる自己抗体の解析をされている一方で、NMO患者さんの臨床情報をまとめておられます。当院との共同研究で、経過や臨床病型における年齢や他の自己免疫疾患の合併などの影響の解析をご報告いただきました。

Waters博士はVincent教授の下で長年自己抗体の解析をされておられます。抗AQP4抗体についても様々な測定方法を使用して解析しており、今回はMayoクリニックと共同で、同一サンプルを用いた2施設での測定感度比較研究を報告していただきました。世界的に標準となっているMayoクリニックの免疫組織染色法の感度が48%程度だったのに対し、当院でも採用している形質導入細胞を用いた間接蛍光抗体法やフローサイトメトリーを用いたFACS法の感度は約75%と非常に感度が高いことが明らかになりました。ELISA法の感度も70%以下と不十分であり、診断目的にELISA法は用いるべきでないと強調されていました。

Jacob先生はインド出身の神経内科医で、以前にMayoクリニックでフェローをされた時にNMOに対するリツキサンの効果や、ミコフェノール酸モフェチルの効果を報告されています。第一選択にプレドニンとアザチオプリン(イムラン)の併用かミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)、第二選択にリツキサン(リツキシマブ)、第三選択でミトキサントロン(ノバントロン)、それ以外のオプションとして定期的な血漿交換やIVIGが期待されるというお話で、非常に臨床的に役立つお話でした。

仙台NMO勉強会_f0183250_196271.jpgHo Jin Kim先生は100人以上のNMO患者さんを治療されていますが、30人の患者に対してリツキサンを投与されており、その有効性を報告されました。この内容はつい最近のArchives of Neurologyに掲載されています。頻回に血中のメモリー型B細胞を測定し、その割合が0.05%を超えたところで、少量のリツキサンを追加投与し続ける方法で、年間のリツキサン使用量の減少と、著明な再発予防効果が得られるという報告です。今後のスタンダードな投与方法になりそうですが、高価なのと、長期的な安全性についての懸念があるので、第一選択にはならないとのことでした。

日本からは、京大の小森先生、千葉大の鵜沢先生、近大の宮本先生、埼玉医大の王子先生、精神・神経センターの千原先生、阪大の木下先生の6人の先生方に研究内容をご発表いただきました。いずれのご発表もすごくまとまっていて分かりやすく、海外からの先生たちと白熱した議論が出来てよかったと思います。

会議は昼過ぎから5時間続きましたが、その後も午後9時くらいまで、ホテルのラウンジで食事をしながら議論が続きました。多くの参加者が最後まで残って情報交換することができた様子で、有意義な1日になれたのではないかと思います。


# by multiplesclerosis | 2011-07-17 19:16 | 講演会報告

A new STEP in MS

 6月10-11日チェコ・プラハで行われた"A new STEP in MS: Scientific Training and Education Programme"に参加してきました。この会のメインは日本でも近々承認予定のFingolimodです。Fingolimodは元々日本で開発された免疫調節薬で、スフィンゴシン-1リン酸受容体を介したリンパ球の遊走能抑制により免疫機能を調整する薬剤です。A new STEP in MS_f0183250_1511049.jpg
 44ヶ国から100人を超える参加者が集まり、会場は熱気に包まれていました。FREEDOM(Fingolimodとプラセボとの比較試験)とTRANSFORMS(FingolimodとIFN-β1aとの比較試験)の2つの治験結果の説明もさることながら、「炎症過程での機能不全のみでMS病態の進展は説明できるか?」という議題でのパネルディスカッション、医療面接の技術に関するセッション、各地域ごとに分かれた分科会でのグループディスカッションといったプログラムも用意されており、盛り沢山の2日間でした。
 特に興味深かったのはScripps Research InstituteのJerold Chun先生が発表していた、Fingolimodの中枢神経細胞に対する作用についてです。EAEマウス(実験的な多発性硬化症モデルマウス)において、Fingolimodは末梢リンパ球に作用するのみならず、脳血管関門を通過してアストロサイトやオリゴデンドロサイト、マイクログリアに作用し、グリオーシスや脱髄などを抑制する効果があったとの報告でした。単純な免疫抑制効果だけなく中枢神経系に直接作用する効果があるとすれば、MSのみならず中枢神経疾患に幅広く応用できる鍵となるかもしれません。
 分科会では、オーストラリア、台湾、マレーシア、フィリピン、インドネシア、南アフリカと一緒のグループに入りました。治験での結果や、既に承認されたEU諸国やロシア、アメリカでの承認内容を元に、Fingolimodを中心としたMS治療について議論しました。参加者の関心が高かったのは、現在他剤にて治療を受けているMS患者さんでのFingolimodへ切替についてや、Fingolimodの安全性についてです。どのような患者さんで切替をすべきか、Fingolimod特有の副作用にはどのように対処すべきか、等について、各国から活発に意見が飛び交いました。座長を務めたMartin Duddy先生とはたまたま知り合いであったこともあり、日本での事情について意見を求められた場面もありました。自分自身もディスカッションについて行くのに必死であっただけに、日本が国際競争で勝って行くためにも英語でディスカッションをする能力は必要不可欠に感じました。
A new STEP in MS_f0183250_15113381.jpg
 ヨーロッパに行くとどうしても早起きしてしまうのですが、今回も毎日朝5時頃に起きてしまいました。折角なので、ホテルからプラハ城やカレル橋、旧市街広場まで散歩してみました。昼間は観光客で寿司詰めになっているこれらの場所もさすがに早朝はほとんど人がおらず、爽快な散歩を楽しむことが出来ました。市街地で朝ご飯を食べ地下鉄で戻ってくる予定が、財布をホテルに忘れてしまい、また歩いてホテルまで戻るというアクシデントはありましたが…(西山)


# by multiplesclerosis | 2011-06-12 15:14 | 研究会情報

世界MSデー

5月25日(水)は世界MSデーです。日本多発性硬化症協会では、世界MSデーのイベントとして、同日東京の数寄屋橋付近でパンフレット配布を行うそうです。

平成23年度「World MS Day」の行事(日本多発性硬化症協会ウェブサイトより)

配布時間は10:00~17:00、ただし配布終了時をもって解散。
ご協賛いただいた製薬会社および一般企業の方々にご協力を要請したため、ボランティアの受付はしていない、とのことです。
# by multiplesclerosis | 2011-05-23 10:47 | お知らせ
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