ECTRIMS報告
ドイツのデュッセルドルフで第25回の多発性硬化症の治療と研究に関するヨーロッパ会議(ECTRIMS)が開催され、参加してきました。
ECTRIMSは年々規模が拡大しており、今年はポスター発表が890題で、口演が130題以上、合計して1000題以上の研究報告が4日間でなされた他、各製薬メーカーによるサテライト講演会やシンポジウムの連日同じ会場で繰り広げられました。参加者はヨーロッパからだけでなく、北米をはじめ世界中から集まっており、MSに関するあらゆる分野の最先端の情報を収集することができます。
ポスター発表は2日間に分かれて掲示され、それぞれ1時間半の討論時間が設けられていましたが、数が多すぎてとても全部に目を通すことはできず、じっくり見て議論できたのはせいぜい1割程度だったように思います。せめて事前に抄録が確認できればもう少し効率よく議論が出来たような気がして残念に思いました。
発表の半数はMSの治療に関することでしたが、今回のECTRIMSで治療に関して特別話題になったものはなかったように思います。インターフェロンに関する演題が約140題と依然として最も多く、タイサブリに関連して進行性多巣性白質脳症(PML)のセッションが独立してあったのが印象に残りました。
視神経脊髄炎に関して、最近Annals of Neurologyに2つの注目すべき論文が受理され、今回のECTRIMSでの大きな話題になっていました。1つは当講座の三須、高橋、藤原とウィーン大学のハンス・ラスマン教授グループの共同研究によるもので、NMO患者さんの血漿から精製したIgGを動物に投与してNMOと同じ病理を引き起こす基礎的な実験です。類似の報告は大阪大学の木下先生、中辻先生からすでにありますが、今回の研究報告の重要な点は、抗アクアポリン4抗体だけを動物に投与しても病気には決してならないということと、T細胞による脳内での炎症惹起が発症に必要であるということ、アクアポリン4のペプチド断片感受性の活性化T細胞による炎症惹起と抗アクアポリン4抗体の投与でNMO病変が作り出せること、などが挙げられます。今後はNMO患者さんにおいてアクアポリン4感受性の活性化T細胞が存在しているかどうかの確認が必要になってきます。もう1つはコロラド大学のジェフ・ベネット准教授のグループによる研究で、1人のNMO患者さんの髄液B細胞の遺伝子解析からその細胞の持つIgGを人工的に合成し、それがアクアポリン4抗体と反応(結合)し、動物に投与することでNMOと同じ病理を引き起こしたという基礎的な実験によるものです。この報告ではミエリン塩基性蛋白(MBP)で免疫した動物にIgGを投与しているためIgGのみの影響は十分に解析されていませんが、IgGの認識パターンが数種類あり、それぞれが異なる反応を示している点がとても興味深い点です。
ジェフ・ベネットの研究グループは同じ手法でMS髄液中のB細胞の解析も行っており、作り出された合成IgGはミエリンを認識せず、むしろアストロサイトによく反応したということで、これまでの概念とは異なる働きを持つ可能性を指摘しています。
デュッセルドルフでは美味しいビールとソーセージを沢山堪能してきました。気候も過ごしやすく、ライン川のほとりの散歩がとても気持ち良かったです。
ECTRIMSは年々規模が拡大しており、今年はポスター発表が890題で、口演が130題以上、合計して1000題以上の研究報告が4日間でなされた他、各製薬メーカーによるサテライト講演会やシンポジウムの連日同じ会場で繰り広げられました。参加者はヨーロッパからだけでなく、北米をはじめ世界中から集まっており、MSに関するあらゆる分野の最先端の情報を収集することができます。
ポスター発表は2日間に分かれて掲示され、それぞれ1時間半の討論時間が設けられていましたが、数が多すぎてとても全部に目を通すことはできず、じっくり見て議論できたのはせいぜい1割程度だったように思います。せめて事前に抄録が確認できればもう少し効率よく議論が出来たような気がして残念に思いました。
発表の半数はMSの治療に関することでしたが、今回のECTRIMSで治療に関して特別話題になったものはなかったように思います。インターフェロンに関する演題が約140題と依然として最も多く、タイサブリに関連して進行性多巣性白質脳症(PML)のセッションが独立してあったのが印象に残りました。
視神経脊髄炎に関して、最近Annals of Neurologyに2つの注目すべき論文が受理され、今回のECTRIMSでの大きな話題になっていました。1つは当講座の三須、高橋、藤原とウィーン大学のハンス・ラスマン教授グループの共同研究によるもので、NMO患者さんの血漿から精製したIgGを動物に投与してNMOと同じ病理を引き起こす基礎的な実験です。類似の報告は大阪大学の木下先生、中辻先生からすでにありますが、今回の研究報告の重要な点は、抗アクアポリン4抗体だけを動物に投与しても病気には決してならないということと、T細胞による脳内での炎症惹起が発症に必要であるということ、アクアポリン4のペプチド断片感受性の活性化T細胞による炎症惹起と抗アクアポリン4抗体の投与でNMO病変が作り出せること、などが挙げられます。今後はNMO患者さんにおいてアクアポリン4感受性の活性化T細胞が存在しているかどうかの確認が必要になってきます。もう1つはコロラド大学のジェフ・ベネット准教授のグループによる研究で、1人のNMO患者さんの髄液B細胞の遺伝子解析からその細胞の持つIgGを人工的に合成し、それがアクアポリン4抗体と反応(結合)し、動物に投与することでNMOと同じ病理を引き起こしたという基礎的な実験によるものです。この報告ではミエリン塩基性蛋白(MBP)で免疫した動物にIgGを投与しているためIgGのみの影響は十分に解析されていませんが、IgGの認識パターンが数種類あり、それぞれが異なる反応を示している点がとても興味深い点です。
ジェフ・ベネットの研究グループは同じ手法でMS髄液中のB細胞の解析も行っており、作り出された合成IgGはミエリンを認識せず、むしろアストロサイトによく反応したということで、これまでの概念とは異なる働きを持つ可能性を指摘しています。
デュッセルドルフでは美味しいビールとソーセージを沢山堪能してきました。気候も過ごしやすく、ライン川のほとりの散歩がとても気持ち良かったです。
by multiplesclerosis
| 2009-09-13 21:53
| 学会報告