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ガシー・ジャクソン慈善財団ミーティング報告

f0183250_1052859.jpg2012年10月22日~23日の日程で、ロサンゼルス空港近くのホテルにおいて第5回のガシー・ジャクソン慈善財団(GJCF)主催のラウンドテーブルミーティングが開催されました。GJCFは、視神経脊髄炎(NMO)の原因究明と治療法開発を目的に、創設者であるビル・ガシー氏とビクトリア・ジャクソン氏夫妻による私財によって5年前に設立された財団です。全米の主な研究機関に研究助成を行っているほか、国際共同研究の推進、研究ミーティングの開催、講演会の開催、ウェブサイトや出版物を介したNMOの啓蒙活動などに取り組んでいます。これまでに財団の支援によって多くの研究成果が挙がっており、いくつかの新規治療薬の臨床試験も実際に始まっています。

今年のミーティングには、12カ国から75名の研究者が集まり、2日間にわたってNMOに関するいろいろな議論を交わしました。日本からは、東北大から中島と佐藤ダグラス、国立精神・神経医療研究センターから山村隆先生が参加しました。山村先生がご報告したIL-6受容体抗体トシリズマブによる臨床効果、特に痛みに対しての効果は非常に関心の高い話題のひとつでした。

トシリズマブ以外の新規治療薬の候補として以下のものが今回取り上げられていました。

1.エクリズマブ:血液中の補体成分、C5に結合するモノクローナル抗体で、補体依存性の細胞障害を抑える働きがあります。発作性夜間ヘモグロビン尿症ですでに認可されている薬剤です。メイヨークリニックが主体となって進めている臨床試験では非常に高い効果が示されたものの、高い薬価と、髄膜炎菌などによる感染症のリスクが問題になっています。

2.アクアポルマブ:アクアポリン4に結合する、補体活性化機能を持たないモノクローナル抗体で、血液中の抗アクアポリン4抗体がアクアポリン4に結合するのを阻害します。今後、臨床試験開始に向けて準備が進められる予定です。長期投与における中和抗体の出現の可能性などについて懸念が示されました。

3.バクテリア由来糖鎖切断酵素S(EndoS):病原性を持つ抗アクアポリン4抗体に作用し、 脱グリコシル化作用で補体依存性の細胞障害活性を失わせます。つまり、酵素の働きで病原性のある抗体を無毒化し、アクアポルマブと同様の機序でアクアポリン4を保護する薬として新たに開発されました。他の抗体も無毒化されるため、やはり細菌感染などのリスクが問題になりそうです。

4.シベレスタット:好中球由来のエラスターゼ活性を阻害する薬剤で、急性呼吸窮迫症候群に対して日本でのみ認可されている薬剤です。NMOの急性期病変の形成には好中球の関与も指摘されており、再発時に投与することで組織障害の程度を軽減できる可能性があります。

5.セチリジン:抗アレルギー剤として日本でも認可されている経口剤です。好中球と同様、NMOの急性期病変の形成に好酸球の関与が指摘されており、セチリジンがNMOの病変形成に抑制的に働くことが動物実験で確認されています。服用しておくことで、再発症状が軽減される可能性が指摘されています。

この他にも、リツキシマブ(抗CD20抗体)、血漿交換などの一般的な治療法の適用方法、抗アクアポリン4抗体の抗体価を含む疾患バイオマーカーの必要性とその候補などについて話し合われました。また同時に、NMOの新たな診断基準の確立のための話し合い、国際共同研究としての共通データベースの構築と、検体バンクの設立のための話し合いも進められました。


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# by multiplesclerosis | 2012-10-26 10:08 | 学会報告

ECTRIMS 2012

f0183250_12472056.jpg2012年10月10日~13日の期間、フランスのリヨンで第28回ヨーロッパ多発性硬化症会議(ECTRIMS)が開催されました。年々規模が大きくなるECTRIMSですが、今年は7000人以上の参加があったようです。多発性硬化症というひとつの病気の診療と研究に関わる人のみが参加しているにもかかわらず、数日間で7000人以上も集まるのは驚異的です。当然、多発性硬化症の診療と研究に関するありとあらゆるテーマが議論の対象となり、MS以外の話題はありません。

リヨンは第1回のECTRIMSが開催された都市であり、この時は参加人数180人だったそうです。また、デビック病(NMO)のデビック先生の地元でもあります。

今年のECTRIMSは大きな話題に乏しかったものの、昨年日本でも承認されたフィンゴリモド(ジレニア/イムセラ)の他、今年アメリカで承認されたテリフルノミド、臨床試験中のラキニモド、BG-12、新しいS1P受容体作動薬のポネシモドなどの経口治療薬の臨床試験結果や展望についての講演が目立ちました。ポスター演題でも、フィンゴリモドの長期投与試験、ONO-4641を初めとするフィンゴリモド以外のS1P受容体作動薬の開発状況、テリフルノミド、ラキニモド、BG-12などの開発中の経口薬の良好な臨床試験結果が発表されていました。

f0183250_1247585.jpgNMOに関しては、精神・神経医療研究センター病院の荒木先生や山村先生が発表されたトシリズマブの再発予防効果が注目されていましたが、ルール大学からも、リツキシマブに治療抵抗を示した3例のNMOで劇的にトシリズマブが効いた、と発表がありました。今後の開発が期待されます。UCSFからはMSで開発中のアレムツズマブが効果を示したNMOの1例が報告されていました。同じくUCSFからは、NMOの病変形成に好酸球の関与を示唆する実験結果が報告され、その好酸球の抑制に、ある種の市販済みの抗アレルギー剤が有効であることも発表されていました。

新しい治療法がどんどん開発されていて、いずれも効果が高く期待はできますが、むしろこれだけオプションが増えると、高い効果よりも安全性が重視される傾向が強くなると予想されます。例えば、すでにドイツなどで長年乾癬治療に用いられているBG-12は胃腸障害が目立つものの重篤な副作用の報告がなく、次世代のMS治療薬として最も期待が高い印象です。また、高脂血症治療剤による進行抑制効果、ビタミンD製剤によるインターフェロンβとの相乗効果、イブジラストによる脳萎縮抑制なども報告されており、安く安全な治療法の開発も報告されていました。


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# by multiplesclerosis | 2012-10-14 12:55 | 学会報告

イギリス訪問

f0183250_22445173.jpg 2012年7月24日から29日までの4泊6日でイギリスのリバプールにあるWalton CentreとオクスフォードにあるJohn Radcliffe病院を訪問しました。
 イギリスは、以前から国の公共医療サービス(NHS)によって健康状態や支払能力に関係なく、国民は医療サービスにアクセスできるシステムが確立しています。ただ、日本と同様、NHSの資金繰りには大きな問題があり、10年くらい前までは医師不足もかなり深刻だったようです。今回Walton Centreでの講演に呼んでくれたAnu Jacobはインド出身で、NHSによる医師不足解消のため招聘された専門医の1人です。こうした海外からの専門医の招聘や、地方病院の待遇改善などによって、最近は医師不足も徐々に解消されつつあるようです。それでも、英国全土における神経内科専門医は600名ほどにすぎずません。Walton Centreは、英国で唯一の神経疾患を専門とした拠点病院(ハブ)で、神経内科専門医が30名以上在籍し病院全体で140床ほどあるそうですが、周辺の病院(サテライト)と病診連携(NHSトラスト)を形成しています。Walton Centreには神経内科、脳外科、リハビリ科などがあり、このトラストにより、マージーサイド、チェシャー、ランカシャーとマンチェスタの一部、マン島、北ウェールズの地域を含む350万人の人口をカバーしています。

f0183250_22454726.jpg Walton CentreにはAnu Jacobの他にも何人かMS専門医がいて、数多くの臨床研究(治験)に携わっていました。外来には日帰り患者用のベッドが20床あり、入院が必要ない患者さんの投薬(点滴)、検査(腰椎穿刺、MRI、電気生理)などをまとめて行っています。毎週水曜日に神経内科医が集まるGrand Roundがあり、午前中に症例検討、昼食時にビジターの講演を行っているそうで、今回その講演に呼ばれました。日本における神経内科の医療状況、日本のMSの特徴、OSMSからNMOへの概念の変遷、非典型的MSの実例などを1時間かけて話しました。関連病院のレジデントが集結する日だったため50人もの聴衆があり驚きましたが、和気藹々と楽しい雰囲気で質疑応答できたのが印象的でした。
 Oxford大学のJohn Radcliffe病院はとても大きな病院で、Churchill Hospital、Nuffield Orthopaedic Centre、Horton General Hospitalとともにオクスフォード周辺の地域医療を担っています。神経内科はヨーロッパで最も大きい臨床神経学の講座であるNuffield Department of Clinical Neurosciencesの一部であり、最先端の基礎研究と臨床研究が行われています。2年前にも一度訪問しており、以来いくつかのNMOに関する共同研究をAngela Vincentのグループと行って論文を発表しています。John Radcliffe病院神経内科のGrand Roundは毎週金曜日にあり、午前中に抄読会と症例検討会、お昼前にビジターの講演を行っているようです。講演にはAngelaのグループの他、約30人ほどの神経内科医やナースが聴きに来てくれて、非典型的なMSや軽症のNMOの診断や病因について多くの質問がありました。

f0183250_22461964.jpg 滞在期間中にオリンピックが開幕し、学生は夏休みで、街には観光客があふれていました。リバプールではAnu Jacobの自宅に宿泊し、オクスフォードではJacqueline Palaceの築300年の自宅に招かれてホームパーティーが開催され、Maria Isabel Leiteの自宅ではポルトガル人の神経内科医が集まってポルトガル料理をご馳走してくれました。オクスフォードではKeble Collegeに宿泊し、オクスフォードで最も大きい古い講堂で朝食をいただきました。奇跡的に滞在中一度も雨が降ることなく、有意義な出張となりました。



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# by multiplesclerosis | 2012-08-01 22:54 | 講演会報告

MSの日曜診療

f0183250_11311557.jpg 先日札幌で北海道MS・NMO医療フォーラムが開催されたが、その翌日(H24年7月22日、日曜日)にさっぽろ神経内科クリニック(深澤俊行院長、クリニックを運営する医療法人セレスのウエブサイトはhttp://www.ceres21.jp/)の日曜診療を見学させていただいた。数年前の冬に初めて訪問させていただいたころは、クリニックの周囲の土地は空き地だったが、現在は開発が進みまわりには個人の住宅がずらりと並んで建っている。さっぽろ神経内科クリニックは数百例のMSを含めた神経難病の医療に積極的に取り組んでおられ、基本的に土曜日と休日が休診日で、月曜日から金曜日と日曜日に診療が行われている。医療フォーラムの深澤先生のご講演では、先生ご自身のMS患者さん全体のうちの4割が日曜日に受診していらっしゃるとのデータが紹介された。

 神経疾患の中でもMSはパーキンソン病やアルツハイマー病等の神経変性疾患に比べて発症年齢が若く、20歳代の発症が最も多い。世の中の仕事の勤務時間は職種や職務内容により実に様々であるが、日曜日が休日である仕事はかなり多い。そのため平日の受診となると患者さんは仕事を休まなければならないことがしばしばであり、そのこと自体が就職しやすさや仕事の継続、あるいは職場での人間関係などに多少なりとも影響する場合も少なくないであろう。そこでさっぽろ神経内科クリニックでは、仕事についている患者さんからの要望の多い日曜日の診療(平日と同様に基本的には予約制)を行っているとのことである。日曜日の午前中にクリニックを訪問させていただいたが、若い患者さんが多く、また予約制であることもあり外来の待合室が混みあっておらずゆったりとしていたのが印象的だった。また機能的でセキュリティーのしっかりした電子カルテが導入されており(写真、診察室での深澤先生と私)、以前の脳脊髄MRI所見など検査所見の経過を追っての比較が容易にでき、必要があれば出張先からでも患者さんのカルテのデータにアクセスすることも可能であるという。

 深澤先生のお話しでは、日曜診療実施のためにはまずこの件に関するクリニックの職員の皆さんの共通の認識が土台となり、そのうえで外来受け付けや診察室の看護スタッフのみならずリハビリやMRI検査などの勤務のやりくりを行うことが必要であるとのことだった。総合病院ではこのような休日診療の実施は容易ではないが、患者さんのニーズに合ったMS医療という点で大いに参考になった。(深澤先生、外来の宿南さん石川さんはじめクリニックの皆さん、見学させていただきありがとうございました)(藤原)


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# by multiplesclerosis | 2012-08-01 11:33 | 講演会報告

Sendai Conference 2012報告

f0183250_7402865.jpg 平成24年7月14日~15日の2日間、仙台トラストシティでSendai Conference 2012を開催しました。海外からは、NMOの診断基準でおなじみのMayo ClinicのDean Wingerchuk、神経眼科が専門のブラジルのMarco Lana Peixoto、Oxford大学の神経内科専門医でMSやNMOを中心にコンサルタントをしているJacqueline PalaceとMaria Isabel Leite、ブリティッシュコロンビア大のAnthony Traboulsee、韓国で初めてMS専門外来を開設したHo Jin Kimの6人を招いて、それぞれの最新の研究内容を含めて講演をしていただきました。いずれの先生方とも共同研究を進めている間柄ということもあってか、忙しいにもかかわらず二つ返事で承諾していただき、何人かは旅費を自己負担してくれてまで参加してくれました。

f0183250_741699.jpg 海外からの演者はみんなフレンドリーでどんな質問にも丁寧に応えてくれていました。国内からは、新潟大の佐治先生、東北大の三須、金沢医大の田中先生、東北大の西山、山口大の清水先生、神経センターの山村先生に最新の研究内容を講演していただきました。また、一般演題として、8人の先生方に症例報告をしていただきました。いずれの症例も大変興味深く、質疑応答も沢山あって有意義な議論ができたと思います。海外のエキスパートからの診断や病態に関する意見は非常に参考になりました。

f0183250_7412864.jpg このカンファレンスの目的は、MSやNMOの診療にあたっている全国の神経内科医(特に若い先生方)に、国際会議を気軽に体験してもらう、臨床研究の興味を持ってもらう、海外研究者と交流してもらう機会を作ることでした。したがって、内容は研修医が聞いてもわかるようなもので、最新の難しい基礎研究の話はありませんでした。MSやNMOの最先端の研究をなさっているエキスパートの先生方にはもの足りない内容になったかもしれませんが、若い先生方には大いに刺激になったようです。多くの日本人の演者が英語での口演は初めてだったと思いますが、海外のエキスパートを前に皆さん堂々とすばらしい口演をしていただきました。
 懇親会ではBest Abstract Awardの表彰式も行い、大本命の宮本先生がしっかりと受賞されて、大いに盛り上がりました。(中島)


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# by multiplesclerosis | 2012-07-16 07:53 | 学会報告

第53回 日本神経学会学術大会

f0183250_1332482.jpg5月22日から25日にかけて、東京国際フォーラムで第53回日本神経学会学術大会が開催されました。当講座スタッフは以下の発表を行いました。

1.シンポジウム:中枢神経を侵す難治性炎症性疾患の治療法の選択と最適化:Q&A
 「視神経脊髄炎」
 演者:中島一郎
2.ランチョンセミナー
 「多発性硬化症の新治療戦略-日本発世界初の経口剤フィンゴリモドの選択肢-」
 演者:中島一郎
3.口演:多発性硬化症②治療
 「多発性硬化症におけるインターフェロンβ中和抗体の陽性頻度と臨床的意義の解析」
 演者:中島一郎
4.口演:視神経脊髄炎
 「ヒトアストロサイト一次培養細胞に対する視神経脊髄炎患者IgG・補体の影響」
 演者:西山修平
5.口演:多発性硬化症③その他
 「腫瘍様炎症性脱髄性疾患におけるアストロサイト破壊性病巣」
 演者:高井良樹
6.ポスター:多発性硬化症と視神経脊髄炎②
 「NMOにおける非中枢神経系病変」
 演者:三須建郎
7.ポスター:多発性硬化症と視神経脊髄炎④
 「多発性硬化症と視神経脊髄炎における痛みの特徴とQOLに及ぼす影響の比較検討」
 演者:金森洋子

今回の学会における多発性硬化症に関連した一番の話題は昨年末に発売されたフィンゴリモド(イムセラ、ジレニア)で、国内の第2相試験の結果を斎田孝彦先生が、その長期試験結果を吉良潤一先生が発表されました。23日のイブニングセミナー、25日のランチョンセミナーでもフィンゴリモドに関連した講演やパネルディスカッションが開催され、質疑応答で盛り上がっていました。

f0183250_134194.jpgフィンゴリモドの国内試験において、抗アクアポリン4抗体陽性の患者さんで病態の悪化が見られたことから、現時点ではNMOの患者さんへの適用は避けるべきとされています。インターフェロンβもNMOには適用にならないことから、病初期におけるMSとNMOの鑑別が非常に重要になりますが、今回の学会では両者の鑑別が難しい症例や、診断における問題点を指摘する報告が目立ちました。新しい技術を用いたMRI撮像法の有用性の報告も興味深かったです。

今後もいくつか新しい治療法の開発が予定されていますが、適切な治療法を選択するための的確な診断と、正しい病態把握がより重要になってきます。

東京での開催は地方都市開催に比べると旅情に欠けますが、参加者が多く、いろんな人に会えるメリットがあります。


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# by multiplesclerosis | 2012-05-26 13:47 | 学会報告
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